大阪地方裁判所 平成2年(ヨ)1138号 決定 1990年11月06日
申請人
日本一生コンクリート株式会社
右代表者代表取締役
吉川六郎
右代理人弁護士
益田哲生
被申請人
全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部
右代表者執行委員長
武建一
右代理人弁護士
永嶋靖久
同
森博行
主文
一 申請人が被申請人に対し金一〇〇万円の保証を立てることを条件として、被申請人は、その所属の組合員または第三者をして、申請人の製造する生コンクリートの申請人泉大津工場からの搬出、もしくは生コンクリートの材料の同工場への搬入を、右車両の前面に立ちふさがり、あるいは車両その他の妨害物を置くなどして、実力をもって妨害・阻止させてはならない。
二 申請費用は被申請人の負担とする。
理由
第一申請
主文同旨
第二事案の概要及び主要な争点
一 疎明された事案の概要
1 申請人は、肩書地に本社を、泉大津市臨海町一丁目三三番地に泉大津工場を置き、生コンクリート(以下「生コン」という。)の製造・販売等を業とする株式会社である。申請人は、独自の運送設備を有しておらず、申請人が製造した生コンは、申請外株式会社成進(以下「成進」という。)が運送している。
2 被申請人は、関西地区におけるセメント・生コン産業及び運輸産業、建設一般産業等で働く労働者によって組織された労働組合である。
前記成進は、コンクリートミキサー車を保有する個人商店主たちと個別に契約を締結し、申請人の製造した生コンを運送させていたところ、平成元年六月ころ、右商店主のうちの一一人が被申請人に加入した。
3 被申請人は、成進と各商店主の関係は実質的には使用者と労働者の関係であり、さらに成進は申請人が労働法上の責任を回避するために別法人とした申請人の一運送部門にすぎず、申請人と各商店主との関係も実質的には使用者と労働者の関係であると主張して、平成元年六月一二日、申請人に対し、労働組合加入通知及び団体交渉の申し入れをなした。
しかし、申請人は各商店主に対し使用者としての責任を負うべきいわれは全くないとして団体交渉要求に応じず事態は紛糾した。
そこで、生コンの注文を取って申請人に発注したり、申請人に生コンの原材料である砂利・砂を納入する等の立場にある申請外株式会社眞壁組(以下「眞壁組」という。)の代表取締役申請外眞壁明と被申請人の執行委員長武建一が、事態の根本的解決を目指した非公式の和解交渉を開始したが、これも平成二年三月ころ決裂した。
4 被申請人は、右の和解交渉決裂の経過には組合潰しを狙う眞壁明の背信行為があったと主張し、平成二年四月一一日午前七時二〇分ころから同日午後三時ころまで、宣伝車一台及び大型バス一台で約一五〇人の組合員を動員して申請人泉大津工場に乗り込んで抗議行動を行った。それ以降も被申請人による右工場における同様の行為が継続しており、申請人は、被申請人の右一連の行為は、自己の業務である生コンの搬出及び材料の搬入を実力により妨害するものであるとして、営業権に基づき右行為の禁止を求めて本件仮処分申請に及んだ。
二 主要な争点
1 申請人の業務の内容(生コンの搬出が、申請人の「業務」に含まれるか。)
2 被申請人の行為の正当性の有無
第三争点に対する判断
一 争点1(申請人の業務の内容)
1 成進と創業当初から契約している個人商店主が当時の辻畑秋成社長から渡された契約書案(<証拠略>)には、申請人が期限までに生コン等を製造して成進に販売し、成進が申請人の工場に引き取りに行ってこれを眞壁組に対し販売するという継続的基本契約を三社間で締結することとなっている。この案によれば生コンの搬出は、申請人の業務に含まれないことになる。
しかし、右の契約書案は、成進側が反対したことから正式の契約締結には至っておらず、申請人は結局眞壁組とも成進とも、右契約書案にかわる正式の基本契約書を交わさないまま営業を開始し現在まで継続してきている。
2 本件疎明資料(<証拠略>)によれば、現実の三社の関係は次のとおりである。
生コンの注文を取ってきた眞壁組は、申請人に対し、生コンを製造し指定工事現場へ納期にあわせて納入することを注文する。成進は単に申請人から生コンの運送業務のみを委託されているものであり、納入先の各工事現場では申請人の担当社員が待機し、到着した生コンの品質を検査し、工事現場責任者に指示どおりの商品であることの確認を受け、納品伝票に荷受のサインを受ける。申請人の業務はこれによりはじめて完了し、眞壁組から代金の支払いを受けられることとなる。右代金には生コンの運送代金も含まれ、申請人から眞壁組へ請求されるが、支払い時期との関係で、成進の取り分については、申請人の了解のもと、眞壁組から成進に直接支払われている。
3 以上のとおり疎明された事実によれば、申請人は単に生コンを製造するのみならず、これを工場から搬出して指定工場現場に納入することまでを業務としており、このうちの運送業務につき成進に委託しているという法律関係にある。よって、生コンの材料の搬入が申請人の製造業務の一環であることはもちろん、製造した生コンの工場からの搬出も成進ないし各個人商店主の業務であると同時に、これを委託した申請人の納入業務の一環であることは自明の理である。
二 争点2(被申請人の行為の正当性の有無)
1 本件疎明資料によれば、被申請人は、前記眞壁明の背信行為に対する抗議として、突然平成二年四月一一日午前七時二〇分ころ宣伝車一台、大型バス一台で申請人泉大津工場に到着し、宣伝車をバッチャープラント下に午後零時三〇分ころまで放置し、約一五〇人の組合員で正門前にピケを張るなどして、生コン車の出入り、積み込み作業を不能にした。申請人は宣伝車移動後の午後一時、生コン車を構内に入れ、生コンを積み込んで出荷しようとしたが、組合員らが正門前にピケを張って妨害したため出荷は不能に終った。
2 被申請人は翌一二日もピケを張って出荷をすべて不能にし、一三日、一四日には、宣伝車、大型バス等の車輌をセメント圧送口の前に駐車させ、セメントの入荷を妨害した。一六日もピケを張り生コンの出荷、セメントの入荷を妨害した。その後も被申請人は連日のように申請人の生コンの出荷、セメントの入荷等の業務を妨害し、同月二五日には宣伝車二台、バス四台に分乗して到着した組合員約二〇〇人が工場正門前にそれまでで最大規模のピケを張って生コンの出荷を妨害・阻止し、同日午前八時過ぎには被申請人に属しない成進の二人の個人商店主が被申請人の組合員らの暴行により傷害を負う刑事事件まで発生した。
3 以上によれば、仮に申請人が被申請人主張のとおり被申請人に加入している一一人の商店主の実質的な使用者として団体交渉に応じるべき立場にあるとしても、被申請人の右一連の抗議行動の態様は、ピケを張って車の前にたちはだかる暴力事件にいたるなど労働組合の正当な活動として許される平和的説得ないしこれと同視しうる程度の方法による活動の範囲を超えた実力行使であるから違法なものである。
三 保全の必要性
生コンは、ミキサー車で攪拌していても、製造後時間が経過するにつれ品質が劣化し、納入時間が遅れると注文主の要求する品質を保つことができなくなる。また、工事現場では工事の進行状況に応じて生コンを必要とし、納入時間の厳守が不可欠である。そこで、生コンの出荷を妨害させるとそれを注文主に引き取ってもらえなくなるから、申請人は生コンの製造自体を中止せざるをえず、積み込んだ生コンも廃棄処分せざるをえなかった。
被申請人の妨害行為は波状的に続き、最近も一〇月五日、同月一二日と妨害行為がなされ、今後も繰り返されるおそれが高いため、ユーザーから申請人の生コンの安定的供給能力を疑問視して取引を遠慮する申し出が相次ぎ、被申請人の行為による申請人の損害は、単に当該取引上の損失にとどまらず、申請人の経営そのものを圧迫している。
よって保全の必要性もあるということができ、申請人は、その営業権に基づき、被申請人がその所属の組合員または第三者をして行わせる右のような実力による営業妨害行為を差し止める権利を有する。
四 結論
以上、本件仮処分申請は理由があるから、本件における事情を考慮して申請人に主文掲記の保証を立てることを条件としてこれを認容し、申請費用の負担につき民事訴訟法八九条にしたがい、主文のとおり決定する。
(裁判官 水谷美穂子)